ARの主な手法を説明しましたが,この2つの手法にはメリットとデメリットが存在します.
この2つの手法は,主にARを用いたい場面によって使い分けられています.
ビジョンベース型ARのメリットとしては,
計算量が少なくて済む
ARマーカーを置くことで,ARコンテンツを表示したい場所を簡単に決めることが出来る
すぐに始められるライブラリやOSS(オープンソースソフトウェア)が比較的多く揃っている
の3つが挙げられます.
理由は,
→ロケーションベース型ARは,ARコンテンツを表示する為に複雑な計算が必要になりますが,ビジョンベース型の場合画像の特徴量を計算するだけでコンテンツの表示が可能です.
→ロケーションベース型ARは,マーカーを置かなくても良い代わりに,ARコンテンツを表示するための特別な計算が必要になります.
この計算には画面内の何処に,またどんな大きさでコンテンツを表示するかなどの計算も入っており,非常に複雑です.
ビジョンベース型ARは,ARマーカーを置くことで,どこにARコンテンツを表示するか,どんな大きさで表示すればよいかといった計算を簡単に行うことができるようになります.
→AR技術が注目され始めると,ARをより簡単に扱うことができるように様々なライブラリ(プログラムの集まり)が開発されました.
ARToolKitはその代表格で,ビジョンベース型ARのコンテンツを作る際には1度は耳にするライブラリの一つです.
簡単なプログラミングさえできれば,簡単にARコンテンツを作ることが可能になりました.
便利なビジョンベース型ARにも,以下の3つのようなデメリットがあります.
マーカーを印刷して準備しておかなければならない
現実空間に違和感を生じさせる
屋外での利用が難しい
メリットの2つめで,マーカーを準備することがメリットにつながるという話をしましたが,これは同時にデメリットにもなりえます.
ビジョンベース型ARは,自分たちが作った(指定した)ARマーカーがないとARコンテンツを表示させることができません.
従って,マーカーがない場所では何の動作をさせることもできませんし,仮にARマーカーがあっても,それがARマーカーであると認識ができる角度・範囲にユーザーがいなければ,ARコンテンツを提供できません.
ビジョンベース型ARで使用されるマーカーは,基本的に幾何学的な模様が多いです.
幾何学模様というのは,私達が生活している中でそうそう目にかからない模様であるともいえます.その幾何学模様が現実空間に突然現れたらどうでしょう?明らかに違和感を感じませんか?
ARの目的は現実空間の拡張及び減衰です.いかに現実と仮想空間の間に生じるずれを少なくするかの研究も行われています.
ビジョンベース型ARは,このずれを少なくするという点では,ロケーションベース型ARに劣っているといえます.
ARマーカーを用いる大きな理由は手軽にARコンテンツを提供できる点にありますが,屋外での利用は難しいとされています.
まず,ARマーカーの多くは紙とインクを使った印刷物で作られています. 雨や雪が降った場合,ARマーカー自体が破れてしまったり,インクが滲んでしまったりして使い物にならなくなってしまう事があります.
また,ARマーカーをはりつける際には,土地やモノの所有者に許可を得なければならなかったり,場合によってはお金を払わなければならないことも出てくる可能性があります.
ロケーションベース型ARのメリットとしては
が挙げられます.
ロケーションベース型ARでは,ARコンテンツを表示したい対象物,或いはセンサの値がビジョンベース型ARでいうARマーカーの役割を果たします.
基本的に屋内でARを利用する時はビジョンベース型AR
,屋外でARを利用する時はロケーションベース型AR
を使用するとよいでしょう.
ロケーションベース型ARでは,ARマーカーを事前に用意する必要がありません.
またARマーカーを配置する必要が無いので,周囲の景観を損なうこともないため,現実空間と仮想空間の間をシームレスにつなぎ合わせることが可能です.
ロケーションベース型ARの一番のメリットは,携帯端末に搭載されているセンサの様々な値を元にしてARコンテンツを提供できることです. 以下にスマートフォンで利用されている主なセンサを紹介します.
センサ名 | 説明 |
---|---|
ジャイロセンサ(加速度センサ) | 端末の回転や重力,傾きなどを取得する |
GPS(Grovbal Positioning System) | 人工衛星を利用して,端末が地球上のどの位置にいるかを計測する |
輝度センサ | 端末がある環境の明るさを取得する |
圧力センサ | 端末がある環境の気圧を取得する |
加速度センサ | 加速度を取得する.具体的にはシェイクなどの動作を察知する |
地磁気センサ | 磁場を検知する.コンパスなどで利用される |
これらのセンサで取得できる値を元に,リアルタイムで変動するコンテンツを提供出来るのもロケーションベース型ARの醍醐味と言えます.
ロケーションベース型ARのデメリットは,ビジョンベース型ARのメリットでも話した通り,
が挙げられます.
ロケーションベース型ARの難点は計算量とその複雑さにあります.
このデメリットを解消できれば,より洗練された面白いARコンテンツを作成することができるようになるでしょう.